ギルティクラウン [ GUILTY CROWN ]

0 1 監督：荒木哲郎ディープインタビュー楽しませる気満々で作っています。
"快楽、快楽、また快楽"な作品。
- ——まず最初に、参加の経緯からお伺いできますか？
- 「Production I.Gとアニプレックスが進めていたオリジナル企画に呼んでいただいた、という形ですね。そのときは“軍隊と戦う超能力少年少女の話”くらいの企画だったと思います。で、ほぼ同じ時期に（シリーズ構成の）吉野（弘幸）さんも呼ばれていて、２人で“こういう作品が作りたい”と。お互いが好きなポイントを探しながら、企画を揉んでいくなかで“これだ！”というものを見つけていった感じですね」
- ——その“これだ！”というポイントというのは？
- 「もともと一番最初は“特殊な能力を持った少年が、養成施設みたいなところから逃げ出す”みたいな話だったんです。超能力やゲノム、というお題はすでにあって、“現代社会に近い舞台にしたい”と言ったのは僕ですね。で、その“超能力”に何かもうひとつネタを乗せたいね、って考えていった結果、“友達が武器になる”という状況設定が生まれたんです。友情こそが力になるという、言葉通りの意味である一方で、友達を奴隷のように扱うという背徳感も刺激する。派手なアクションも用意してはいるんですけど、その前段階として人間関係をめぐって、主人公が葛藤する。その二段構えというか構造が見えたときに“これだね”と」
- ——背徳感というお話がありましたけども、人間関係の機敏、みたいなものが『ギルティクラウン』のテーマのひとつですよね。
- 「ちょっと記憶が曖昧なんですけど、吉野さんに“どういう作品が好きなんですか？”と聞かれたときに、真鍋昌平さんの『闇金ウシジマくん』や新井英樹さんの『ワールドイズマイン』のような、シビアな作品の名前を挙げたんですよ（笑）。だから俺が好きそうな球を、吉野さんが投げてくれたのかもしれない（笑）」
- ——考えてみれば、荒木さんの前作『学園黙示録 HIGHSCHOOL OF THE DEAD』も、極限状況におけるシビアな人間関係を描いた作品でしたね。
- 「『HIGHSCHOOL OF THE DEAD』に関していえば、僕の好きな作品のひとつに『漂流教室』（※楳図かずおの漫画作品）があるんです。サバイバル状況の話が好きで、しかもゾンビ映画が好き（笑）。なんというか、サバイバル状況に追い込まれて、人が普段被ってる虚飾を剥ぎ取られてしまう。そういうのが好きで……。ただ、個人的にはそういう趣味を全開にすることが、必ずしも今回の作品にとってプラスになるとは思ってないんです。基本的には“ザッツ・エンターテインメント”なもの。快楽、快楽、また快楽というか（笑）。そこにちょっとだけ毒が入ってる、みたいな」
- ——物語のポイントとして、舞台が占領下の日本という設定になってますよね？　これはどこから来たアイデアなんでしょうか。
- 「ひとつは、物語の要請ですね。まず最初に、ロボットに乗って主人公たちに襲いかかる敵がいる。彼らを架空の団体にするか、実在の団体にするかで、ひとつ判断があったんです。どちらを選んでも、メリットとデメリットがある。そこで“GHQ”という敵を想定したのは、そうすると説明を省くことができるんですね。 “GHQ”という言葉を使うことで、わざわざ説明しなくても、観ているお客さんに補完してもらうことができる。あともうひとつ重要なのは、GHQに占領されていた頃の日本は、そこそこ幸せだったっていう事実です。彼らは日本人に圧制を強いていたわけではなくて、むしろ善意だったともいえる。そこがいいなと思ったんです」
- ——敵の見えにくさ、みたいなことですよね。
- 「実際の世の中では、敵はそんなにわかりやすい顔をしてないぞ、っていう僕のなかに意識があるんです。立場的に敵だとしても、実際に一人ひとりと会ってみると、意外といいヤツだったりする。そういう意識が基本にある。葬儀社が暴こうとしているGHQの罪——それは物語が進むにつれて、少しずつ明らかになっていくんですけど——にしても、一概に“悪”とはいえない側面がある。そういう正義と悪のわかりずらさ、みたいなものは、現代にモノを作る人の誠意として入れてみたいと思っていました」
- ——ドラマの本質については、物語が進むにつれてまた違った側面が見えてくると思うのですが、少し話を変えて、ビジュアル面についてお伺いします。『ギルティクラウン』の大きなポイントとして、supercellのredjuiceさんがキャラクター原案という形で参加していますね。彼の絵の魅力はどんなところにあるのでしょうか？
- 「表情のニュアンス——喜怒哀楽のどれでもない表情をしているところだったり、あるいはポーズ。ちょっとした腰つきみたいな——普段の生活で目にしてるんだけど“えっ、そんなところを拾うの？”みたいな微妙なところを突いてくるんです。わかりやすく面白いポイントで言えば、例えば足先。靴の先をシャープにとんがらせて、という指示が絵に描かれてて、なるほど、こういうところにこだわる絵の描き方があったんだな、と」
- ——redjuiceさんの絵には、アニメーションに移すときに、難しい表現も含まれていますよね。そのあたりはご苦労をされたんじゃないかと思うのですが……。
- 「確かに、redjuiceさんの絵の特徴のいくつかは、アニメーションの表現に置き換えられないものがあります。そういうリスクも負いつつ、彼の絵の魅力をどうやってアニメーションに残していくか。それが作業を進めるなかでだんだんと見えてきて。例えば白目と黒目の比率だったり、頭身のバランスとか色の置き方。実際のredjuiceさんの絵と較べると、アニメのキャラクターは作業上の理由で若干、頭身が低くなってるはずなんですけど、それでも「あの感じ」を出すために別のところで差異を埋めるっていう。あと、とにかく彼の絵の魅力を言いふらすのが、僕の仕事だと思うんですよ（笑）。そうやってみんなが彼の絵を好きになれば、自然とアニメの絵も彼の絵に近づいていく。 redjuiceさんの絵にしても、キャラクターデザインの加藤裕美さんの絵にしても、みんなが楽しんで描いてくれる状況が生まれてきているので、ありがたいことだな、と思いますね」
- ——もう少し具体的にお伺いしたいのですが、キャラクターのデザインを決めていく際、redjuiceさんにはどういった材料を渡していたんでしょうか？
- 「たいした材料を渡したわけじゃなくて、本当に企画が始まった当初からredjuiceさんに入っていただいていたんです。ストーリーの部分だったり、あるいはこの作品をどうやって売っていくのか、みたいな部分も含めて、一緒に話して詰めていって。それこそ“そろそろ集を描いてもらってもいいですかね？”みたいな（笑）」
- ——企画のベースになる部分から、redjuiceさんに参加してもらっていたわけですね。最初に着手したのは、やはり集、涯、いのりの３人ですか？
- 「そうですね。この３人の関係が軸になる、と。そのときに“初登場時のいのりはちょっと派手すぎるくらい派手にしてください”という話はしました。フィルム全体はちょっと渋めのトーンになる——例えば、第１話の冒頭は青っぽい色づかいで統一してるんですけども、そのなかで、いのりははっきりと差し色にしたかった。青いトーンの世界のなかで、彼女の赤色が際立つような、そういう存在でいてほしかったんですね。それまでredjuiceさんが描いていたイラストは、リアル寄りのものだったんですけども、すぐにモードを切り替えてこの絵（※いのりのイメージイラスト）が出してきてくれたんですが、それが本当に素晴らしかった」
- ——これは少し世界観の話に関係するかと思うんですが、背景美術を竹田（悠介）さんが担当されてますよね。光の描き込みが美しい背景になっているんですが、竹田さんに依頼したのはどういった経緯だったんでしょうか？
- 「もともと僕自身が、竹田さんの美術のファンだったんです。マッドハウスで仕事をしていたときから“美術は『精霊の守り人』みたいにしてほしい”ってやり取りをしていたくらい（笑）。影のコントラストだったり、雲の描き方だったり、世界はこんなに美しいんだって気持ちを感じさせてくれる。今回は、もともと竹田さんがI.G６課とお仕事をされていた関係で、向こうから“竹田さんでどうですか？”と提案されたんです。いや、そのときはちょっとクラクラしましたね（笑）」
- ——念願がかなった、というか（笑）。
- 「まさにそうですね。最初のPVを作っていたとき、第１話冒頭のカット（※集のマンションのベランダから、23区の夜景が見える）のBGが上がってきて。それを制作進行の番匠くんと一緒に、何気なくモニターにポンと映したんです。で、二人で“うおぉ！”と（笑）。コンテを描いてたときは、それほどすごいカットのつもりでは描いてないんですよ。 “遠くのビル街をバックに、たたずむ主人公”くらい、本当によくあるカットのひとつって感じで考えてたんですけど、こうして上がってきた絵を見ると、作品を代表するカットのひとつになった。自分で作ったカットだとは、ちょっと思えないくらいです」
- ——あともうひとつ、この作品のポイントになると思うのが、集が使うヴォイドのシーンですね。このシーンはおそらく、かなりの試行錯誤があったかと思うんですけども、コンセプトをお伺いできますか？
- 「さっき少し話したことなんですが、できるところはなるべく、redjuiceさんの味を取り入れようと思ってるんです。可能な限り貪欲に、redjuiceさんの魅力を取り入れたい。で、彼の絵にはちょくちょく、メタリックなエフェクトが入ってくるんです。ヴォイドのシーンは、彼の絵のそういう部分を取り入れたということなんですが……。でもそうやって、ヴォイドのビジュアルを決めていくうちに、絵の要素がストーリーにフィードバックされていく。ヴォイドを構成している“金属結晶”が、物語のなかでかなり重要な意味を帯びてきているんです。最初は、redjuiceさんのイラストの味を作品に取り込もうと思ってただけなんですけども、今では抜きがたく、作品世界に組み込まれてますからね」
- ——ではそろそろ〆にしたいと思うのですが、序盤は基本的に、集と涯の関係を軸にストーリーが進みましたね。
- 「そうですね。ただカッコいいとかリアルだとか、そういう部分だけじゃなくて、観た人にまず楽しんでほしいんですよ。それこそ、エピソードによっては絶対に笑えるハズ！　と思ってたりもします（笑）。テレビシリーズって、やっぱりバラエティーショーであるべきだと思うんです。もちろん主眼になるのは“友達が武器である”っていうテーマだったり、集の成長なんですが、その一方で“『ギルティクラウン』ってこんなアニメだったっけ？”みたいな。それくらい弾けている回があるべきだ、とも思ってて……。“快楽、快楽、また快楽”で、きっと楽しんでいただけると思いますので、ぜひこれからも続けて観てみてください」